1.中皮腫とは
胸部の肺あるいは心臓などの臓器や胃腸・肝臓などの腹部臓器は、それぞれ、胸膜・腹膜・心膜などという膜に包まれています。これらの膜の表面をおおっているのが「中皮」で、この中皮から発生した腫瘍を中皮腫といいます。したがって、中皮腫には、その発生部位によって、胸膜中皮腫・腹膜中皮腫・心膜中皮腫などがあります。
また、中皮腫には、悪性のものと良性のものとがあります。悪性のものには限局性(1ヶ所にかたまりを形成するようなもの)とびまん性(広く胸膜や腹膜に沿ってしみ込むように発育するもの)とがあります。良性のものは、すべて限局性です。悪性中皮腫はかなりまれな腫瘍ですが、その発症には、アスベスト(石綿)が関与していることが多いといわれています。この腫瘍はかなりまれなものであり、例えば悪性胸膜中皮腫は肺がんに比べるとその頻度は1%以下です。
2.症状
良性の中皮腫は、他の臓器へ転移したり、周囲の臓器へ浸潤(しんじゅん:がんが周囲へ拡がること)するような進み方をすることはありません。したがって、あまり症状がなく、検診の胸部単純X線写真でたまたま見つかったりすることがあります。しかし、まれには巨大なかたまりとなり、胸痛・咳がおこったり肺や心臓を圧迫して呼吸困難を伴うこともあります。また、腹膜の良性中皮腫もたまたま手術の際に見つかったりします。
一方、悪性の中皮腫は限局性のものもありますが、一般にはびまん性に胸膜あるいは腹膜などに沿って広範に拡がっていきます。胸膜のびまん性悪性中皮腫では、大量の胸水貯留による呼吸困難や胸痛がおこります。胸壁のしこりを触れるようになることもまれにあります。腹膜の悪性中皮腫では腹水貯留による腹部膨満などがおこります。
3.診断
良性の腹膜の中皮腫は、たまたま腹部の手術などで腹部を開けた時に見つかるようなまれなものです。悪性のびまん性腹膜中皮腫は非常にまれであり、腹腔内に広範に拡がるような悪性腫瘍は、むしろ胃・腸や卵巣などに別のもととなるがんがあって、それが腹腔内に散らばっているような場合がほとんどです。したがって、腹水をとってその性状やその中にいる腫瘍細胞を調べるとともに、これらの他の腹部臓器にがんがないかどうかを調べなければなりません。
良性の胸膜の中皮腫は、胸部単純X線写真や胸部CTで胸の中のしこりとして認められます。身体の外から細い針を刺して組織を採取して、診断がつくこともありますが、手術でやっと診断がつくこともあります。
一方、悪性のびまん性の胸膜中皮腫は、胸部単純X線写真や胸部CTで肺全体を包み込むように拡がった胸膜の肥厚や多数のしこりとして認められ、胸水を多量に伴うこともあります。しかし、肺がんなどの胸膜播種(きょうまくはしゅ:肺がんが胸膜面全体にばらまかれて拡がった状態)との鑑別が難しい場合も多く、胸に針を刺して胸水の中の腫瘍細胞を調べたり、局所麻酔下の生検(組織採取)や胸腔鏡などで胸膜面の腫瘍を採取してそれらを調べる必要があります。また、病巣の進展範囲を評価するために胸部・腹部CTやMRI、あるいは超音波検査などを行います。
4.治療
限局性・良性の中皮腫は、外科療法で治癒が期待できます。
腹部あるいは心嚢(しんのう)の悪性中皮腫は非常にまれですので、悪性胸膜中皮腫について述べます。限局性胸膜中皮腫はほとんどが良性ですが、まれに低悪性度のもの(かつて胸膜の繊維肉腫などといわれていました)があり、これらは通常外科療法で治すことができます。一般には、悪性胸膜中皮腫という場合、びまん性のものを指します。悪性びまん性胸膜中皮腫は、非常に予後不良な病気ですが、これに対する治療には、外科療法、放射線療法、化学療法(抗がん剤治療)及び対症療法があります。
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